こんな記事を見ました。
アイデア自体には価値はない - lestructure's blog
主張は多少過激だけれども、私も大筋には賛成です。パクり問題は、感情論でなく社会全体の利益の長期的観点で考えたいです。
ただこの記事の特許の描かれ方を読んで、特許に詳しくない人が読むと誤解を招きそうと感じたので、特許について一般人(昔の私含む)が誤解しがちな点について解説してみます。
その誤解しがちなテーマは、この2点。
【特許に対する2つのよくある誤解】
1.特許はアイディアを出すだけの人を守るから、アイディアの具現化をがんばる人達の邪魔になる?
2.特許を取ればその会社は儲かるけど、社会全体では技術進歩が遅れる?
今日は1つめについて解説します。
特許はアイディアの発想者より具現化する人を守る制度
まず1つめの誤解から解説する。
特許はアイディアを出すだけの人を守るから、アイディアの具現化をがんばる人達の邪魔になる!
これは誤解であり、事実は逆だ。特許は事実上、製品を具現化する人をこそ守る制度として運用されている。
特許は「束」で持つものが勝つ
特許は束で持つことで大きな効果を発揮するという言葉がある。
これはどういう意味か。
ライバルに基本となる重要な特許を取られても、後から大量に特許を出して束にすることで力関係を逆転できるという意味だ。例えばこんなふうに。
A社が新しいアイディアを思いついて基本となる特許を取ったとする。その特許がある限り、ライバルのB社はその特許を回避しないと製品が出せない。
それは困る。そんな時、B社はどうすればいいか。
その特許を実際に製品化するために必要な周辺技術についての特許を大量に出して、A社も製品化へ向けた身動きがとれないようにすればいい。そうするとA社はB社に対してクロスライセンス契約を結ぶことになる。すると結果として、A社、B社ともに互いの特許が使えるようになる。
このように、基本特許を握られても、その周辺技術の特許の束を確保することで、同等、またはそれ以上の力関係を得ることができる。
GoogleがMotorolaを会社丸ごと125億ドルという高額で買収したのも、単体の特許いくつかでなく、特許の「束」を手に入れるためだ。特許の世界では数が重要だ。
特許の「束」の作り方
では、特許の束が必要になると、どういう会社が有利になるのか。
それはもちろん、1つの製品分野に対して特許の束を作れる会社だ。
特許の束を得るにはどうすればいいか。
これは、実際に大量のリソースを投じて製品を開発するしかない。
これまでになかった新しいものを世に出すときには必ず、予想していなかった大小の問題が次々に出てくる。製品を完成させるためにはそれを全て解決する必要がある。そしてその解決策は全て、書き方次第で発明として特許を取ることができるのだ。するとその会社は、ある分野における大量の特許の束を確保することができる。
例えば、前にこのblogで紹介したマット無しの革命的布団乾燥機、スマートドライ。これについて、開発の過程でどんな課題が発生したか、簡単に紹介する。
スマートドライは布団乾燥機本体を、掛け布団と敷き布団の間に差し込む。これがこの製品の基本的なアイディアであり、今までになかった使い方だ。すると、実際に作る過程で例えばこんな問題があることが新たにわかった。
開発秘話/Vol.15 ふとん乾燥機「スマートドライ」の巻|会社概要|象印
試作機でのテストを繰り返すうち、岩本は大きな壁にぶつかっていた。四角い箱形の乾燥機の吹き出し口をふとんに差し込むと両端に隙間ができ、そこから温風が戻ってしまい足元まで温めることができないのだ。
誤って操作部にふとんが覆いかぶさったような使われ方をしても、過熱して事故にならないよう、製造内部が高温になると乾燥をストップする安全装置も入れた。
「ファンが異常停止してヒーターが過熱された際、機体の中に入って溜まったホコリがヒーターで発火しないのか?」という心配が出てきたのだ。
上記URLには、これに限らず様々な問題が連ねられている。
開発者達はこれを1つ1つ地道に解決した。そして、その解決策について特許を取れば、マット無しの布団乾燥機を作るためのたくさんの特許が含まれた、強力な特許の束を得ることができるのだ。
このように特許制度は、アイディアを始めに思いついた会社より、それを他社に先駆けて製品として実現して特許の束を形成した会社が、より大きな利益を受ける制度になっている。
だから、特許はアイディアマンを守り、他社の実現化を妨げるだけの制度ではない。
次回はもう1つの誤解、
2.特許を取ればその会社は儲かるけど、社会全体では技術進歩が遅れる!
について説明をしていこうと思う。

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